方言

2012年06月01日

 さまざまな土地に旅すると、聞き慣れない言葉とたくさん出会う。それらは、共通点は感じるものの、少し違うニュアンスをもつものであったり、全く検討もつかないものであったりする。こうした「方言」というのは地域に固有の文化であり、故郷を離れたものにとってアイデンティティにもなりうる。

 よく、関西人が東京でくらすようになると、関西弁が懐かしくなるというが、実際は、東京はさまざまな言葉の「るつぼ」であり、結果的に「標準語」に収斂されていくのではないか、と思っている。東京にも方言(江戸言葉)があるのだが、もともと東京に住んでいた人が少ないせいか、あまり耳にしない。

 東近江にも、もちろん方言がある。おおむね関西弁であるが、語尾や発語のイントネーションがじゃっかん異なっているように思える。しかし、私は東近江で日常的に話されている言葉に対し、とくに違和感をもたない。

 平成20年に発行された『まるごと東近江市大百科』によると、東近江の言葉は「滋賀県の湖北は岐阜県に隣接し、岐阜との共通点が、湖南は京都の影響を受けた地域であるといえます。東近江地方は、湖北と湖南の方言が重なりあった地域といわれます」(pp.306)とされている。

 つまり、京都生まれの関西弁話者である私が違和感をほとんどもたないのは当然のことであるといえよう。実際、前掲書においても、「えらいこっちゃ=大変な事だ」「かまへん=構わない」なども方言として掲載されている。これらは関西人にとっては「今さら何言うてんのん?当たり前田のクラッカーやで」なのである。

 もちろん、私でもわかりにくいものも掲載されている。たとえば、

  「あるせふるせ」
  「しとしけない」
  「じらたい」
  「ぼおおれ」

 これらを初見で理解できる方はおられるだろうか。少なくとも、私はまったく分からなかった。もしかすると、岐阜(湖北)では「当たり前田のクラッカー」なのかもしれないが、京都文化圏には難解である。

 正解は、
  「あるせふるせ=ありったけ」
  「しとしけない=はずかしい」
  「じらたい=はっきりしない」
  「ぼおおれ=根負けで投げ出す」

 だそうだ。これはわからない。他にも、いかにも地域特有らしい言葉が掲載されている。『まるごと東近江市百科』は市販されていないが、図書館等で閲覧が可能である。興味がある方は、ぜひご一読いただきたい。

 その中でも、出色のものがある。私は思わず目を瞠った。

  「ちんちこにぎり=強く握って離さないこと」

  ちんちこにぎり。

  つよく握って離さないこと。

 素晴らしい語感である。こうした言葉とその背景に、私は強い学術的関心を覚えるのである。

(事務局長Y)



Posted by いろはちゃん at 11:10│Comments(0)
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